葬儀の祭壇を飾り、故人への弔意を示してきた「盛籠」。その基本的な役割は、今も昔も変わりませんが、その中身は、時代の移り変わりと共に、少しずつ、しかし確実に、変化を遂げています。その変遷は、私たちの食生活や、ライフスタイル、そして価値観の変化を、静かに映し出す鏡のようです。かつての盛籠といえば、その中身は、非常にシンプルでした。果物であれば、りんごや蜜柑といった、日本の四季を象徴する、昔ながらの果物が中心。そして、もう一方の主役は、缶詰でした。特に、桃やみかん、パイナップルといった、果物のシロップ漬けの缶詰は、甘いものが貴重だった時代において、非常な高級品であり、最高の「おもてなし」の品でした。また、乾物として、干し椎茸や高野豆腐といった、日本の伝統的な保存食が詰め合わされていることも、珍しくありませんでした。これらは、儀式後に分け合い、日々の食卓で、ありがたくいただくための、実用的な知恵でもあったのです。しかし、時代が豊かになり、人々の食の好みが多様化するにつれて、盛籠の中身も、より華やかで、バラエティ豊かなものへと進化していきます。果物の盛籠には、マンゴーやドラゴンフルーツといった、輸入物のトロピカルフルーツが加わり、彩りを添えるようになりました。缶詰の盛籠も、単なる果物の缶詰だけでなく、高級なジュースの詰め合わせや、水羊羹やゼリーといった、デザート系のものが主流となっていきます。さらに、最近のトレンドとして、注目を集めているのが、「お菓子」の盛籠です。クッキーやバームクーヘン、マドレーヌといった、個包装された、日持ちのする焼き菓子を、美しくタワー状に積み上げたもので、若い世代を中心に人気を博しています。これは、儀式後に分けやすく、誰もが気軽に口にできる、という現代的な合理性が、支持されている理由でしょう。また、健康志-向の高まりを反映してか、お茶や海苔、調味料といった、より実用的な食品を詰め合わせた盛籠も、選択肢の一つとして定着しています。果物、缶詰、お菓子、そして実用食品。盛籠の中身の選択肢は、かつてないほど、豊かになりました。しかし、その形がどれだけ変わろうとも、故人を偲び、残された人々が、その恵みを分かち合う、という、盛籠が持つ、温かい心の文化は、これからも、変わることなく受け継がれていくに違いありません。