聖なるガンジス川に還るイ!ンドの水葬と死生観
水葬という言葉を聞いて、多くの人がインドのガンジス川を思い浮かべるのではないでしょうか。ヒンドゥー教徒にとって、ガンジス川は単なる川ではなく、女神ガンガーの化身であり、あらゆる罪を洗い流してくれる聖なる存在です。その聖なる川に自らの最期を委ねることは、彼らにとって究極の願いであり、宗教的に非常に重要な意味を持つ儀式なのです。ヒンドゥー教の教えでは、人生は「輪廻転生」のサイクルの中にあり、人々は何度も生まれ変わりを繰り返すとされています。この終わりのない輪廻から解放され、永遠の平安を得ることを「解脱(モークシャ)」と呼び、それが人生の最終目標とされています。そして、聖地ヴァーラーナシーのガンジス川のほとりで火葬され、その遺灰やご遺骨を川に流されること、あるいはご遺体をそのまま水葬されることは、この解脱に至るための最も確実な道であると信じられています。特に、聖者や幼い子供、妊婦、蛇に噛まれて死んだ人などは、すでに罪が清められていると考えられ、火葬を経ずにそのまま水葬されることがあります。川岸に並ぶ「ガート」と呼ばれる沐浴場では、生者が罪を清めるために沐浴をするすぐそばで、死者がオレンジ色の布に包まれ、最後の儀式を執り行われている光景が日常的に見られます。生と死が極めて近い距離で混ざり合い、循環している。この光景は、日本人から見ると衝撃的かもしれませんが、そこには「死は終わりではなく、次なるステージへの通過儀礼である」という、ヒンドゥー教の死生観が色濃く表れています。ガンジス川の水葬は、単なる葬送方法ではなく、彼らの信仰と哲学そのものを体現する、荘厳な祈りの行為なのです。