葬儀の祭壇の両脇に、果物や缶詰、乾物などが美しく高く積み上げられ、供えられているのを目にしたことがある方は多いでしょう。これが「盛籠(もりかご)」と呼ばれる、日本の葬儀における伝統的なお供え物の一つです。供花と並んで、故人様への弔意を示すための、代表的な表現方法として、古くからその役割を担ってきました。盛籠は、単なる食べ物の詰め合わせではありません。そこには、故人様への深い哀悼の意と、残されたご遺族をいたわる、温かい心が込められています。その起源は、仏教における「供物(くもつ)」の考え方にあります。仏教では、仏様や故人の霊に対して、飲食や花、灯りなどを捧げることで、供養の気持ちを表します。盛籠は、この飲食をお供えする「飲食供養(おんじきくよう)」が、時代と共に発展し、様式化されたものなのです。故人が、あの世で食べ物に困ることなく、安らかに過ごせるように、という願い。そして、収穫物への感謝を、仏様やご先祖様に捧げるという、日本の農耕文化に根ざした信仰心も、その背景にはあります。盛籠の中身は、果物であれば、りんごやメロン、ぶどう、柑橘類といった、季節のものが中心となります。缶詰や乾物であれば、日持ちのするものが選ばれます。これらは、儀式が終わった後、参列者や関係者で分け合って持ち帰り、故人を偲びながらいただく、という習慣(お下がり)があるためです。この「分け合う」という行為が、故人の徳を皆で分かち合い、悲しみを共有するという、大切な意味を持っているのです。葬儀の場に、荘厳で、かつ温かみのある彩りを添える盛籠。その高く積み上げられた姿には、故人への尽きせぬ感謝と、ご遺族への深い慰めの気持ちが、静かに、そして豊かに表現されているのです。