葬儀が終わり、慌ただしい日々が少し落ち着きを取り戻した頃、遺族には香典返しという大切な務めが待っています。この贈答品選びは、一見すると事務的な作業のように思えるかもしれません。しかし、私はこの時間こそ、改めて故人と静かに向き合い、生前の感謝をかみしめるための、かけがえのない機会なのだと感じています。どの品物を選ぶか、誰にどんな言葉を添えるか。一つひとつの選択は、故人との思い出を辿る旅のようです。参列してくださった方々の顔を思い浮かべながら、その方と故人との関係性に思いを馳せます。故人の親友には、故人が好きだったお茶を。遠方から駆けつけてくれた親戚には、地元の名産品を。それぞれの品物に、故人への、そして支えてくださった方々への「ありがとう」という気持ちを込めていきます。このプロセスは、決して楽なものではありません。悲しみが癒えない中で、多くの人のことを考え、判断を下していくのは精神的にも負担がかかります。カタログを眺めていても、なかなか心が決まらない日もあるでしょう。しかし、そんな風に悩む時間さえもが、故人を偲ぶ儀式の一部なのだと思います。生前、もっと感謝を伝えればよかった。もっと一緒に過ごす時間を作ればよかった。そんな後悔の念が、贈答品選びを通して、未来への感謝の気持ちへと昇華されていくのを感じます。香典返しは、ただの「お返し」ではありません。それは、故人が繋いでくれた縁を、これからも大切にしていきますという、遺された者からの誓いの証でもあるのです。だからこそ、効率や合理性だけを求めるのではなく、少し時間をかけて、じっくりと心を込めて選びたいものです。この静かな時間は、私たち遺族にとって、深い悲しみを乗り越え、前を向いて歩き出すための、ささやかだけれど確かな力となってくれるはずです。贈答品選びという務めの中に、故人からの最後の贈り物を見出すことができるかもしれません。