父が亡くなったのは、冬の始まりのことでした。葬儀は滞りなく終わりましたが、私の心にはすぐに次の大きな課題がのしかかってきました。それが香典返しです。事務的な作業だと頭では分かっていても、いざ始めてみると、その一つひとつの選択が、父への、そして参列してくださった方々への想いと直結しているように感じられ、深く悩むことになりました。まず直面したのは、カタログギフトにするか、品物にするかという選択でした。カタログギフトは合理的で、受け取った方が好きなものを選べるという利点があります。しかし、どこか機械的で、私たちの感謝の気持ちが十分に伝わらないのではないかという懸念が拭えませんでした。父は生前、人と人との繋がりを何よりも大切にする人でした。だからこそ、何か私たちの手で選んだ品物で感謝を伝えたいという気持ちが強かったのです。次に悩んだのは、品物の中身です。定番とされるお茶や海苔、タオルなども考えましたが、どれもピンとこない。参列してくださった方々の顔を一人ひとり思い浮かべると、年齢も生活スタイルも様々です。全員に喜んでもらえるものなどあるのだろうかと、途方に暮れそうになりました。そんな時、母がぽつりと「お父さん、ここのお砂糖が好きだったわね」と言ったのです。それは、父がコーヒーに入れるために決まって買っていた、少し特別な砂糖でした。その一言で、私の心は決まりました。私たちは、その砂糖と、それに合うコーヒー豆をセットにして贈ることにしたのです。ありきたりな品物ではないかもしれません。しかし、そこには父のささやかな日常の記憶が詰まっています。挨拶状には、その品を選んだ理由を正直に書き添えました。父の思い出と共に、皆様の日常に少しでも穏やかな時間が訪れますようにと。後日、何人かの方から「あなたらしい、心のこもったお返しだった」という言葉をいただき、涙が出そうになりました。香典返し選びは、故人を失った悲しみと向き合い、同時に、支えてくれた人々への感謝を再認識する、かけがえのない時間なのだと、私はこの経験を通して深く感じています。
私が香典返し選びで本当に悩んだこと