父が古希を迎えた頃、私は漠然とした不安を感じ始めていました。それは、いつか必ず訪れる「もしも」の時のことです。父は昔気質の人で、自分の死後のことなど口にしたがりませんでしたし、正直なところ、私たち家族もその話題を避けていました。しかし、現実は刻一刻と迫ってきます。父に十分な貯蓄があるのかも分からず、かといって直接聞くのも憚られる。万が一の時、葬儀費用はどうするのか。その負担が、突然私たち兄弟の肩にのしかかってくるのではないか。そんな不安が頭をよぎるようになりました。そんな時、偶然知ったのが葬儀保険の存在でした。最初は、死んだ後のためにお金をかけるなんて、と少し縁起でもない気持ちになりました。しかし、その「からくり」を知るうちに、考え方が変わっていきました。それは、単に葬儀費用を賄うためのものではなく、遺される家族への「思いやり」を形にするための仕組みなのだと気づいたのです。私が特に惹かれたのは、保険金の支払いが非常に迅速だという点でした。父の預金がどうなっているか分からない状況で、まず数百万円という現金を自分たちで立て替えなければならないかもしれない、という不安は想像以上に重いものでした。葬儀保険があれば、少なくともその心配からは解放されます。それは、悲しみに暮れる時間の中で、お金の心配をせずに父とのお別れに集中できるという、何物にも代えがたい価値だと思いました。私が保険料を支払う形で、父を被保険者として契約しました。父には「お守りみたいなものだから」とだけ伝えました。それから数年後、父は静かに旅立ちました。悲しむ間もなく、葬儀の準備が始まりました。あの時、保険会社の担当者に電話を一本入れると、本当に数日で指定した口座に保険金が振り込まれたのです。そのおかげで、私たちは金銭的な不安を一切感じることなく、父らしい温かい葬儀を執り行うことができました。あの時、少しの勇気を出して葬儀保険という選択をして、本当によかった。それは、私から父への最後の親孝行であり、父から私たち家族への最後の贈り物だったのかもしれません。
私が親のために葬儀保険を選んだ理由