葬儀が終わり、故人を偲ぶ日々が続く中で、遺族はやがて遺産相続という現実的な手続きに向き合うことになります。預貯金の解約、不動産の名義変更、株式の移管など、複雑で多岐にわたる相続手続きを進める上で、すべての起点となるのが「故人の死亡を証明する」ことです。この証明なくしては、相続に関するいかなる手続きも一歩たりとも進めることはできません。相続手続きにおいて、故人の死亡を証明するための最も基本的かつ強力な書類は「戸籍謄本(除籍謄本)」です。人が亡くなると、遺族が死亡届を役所に提出することで、その方の戸籍に死亡の事実が記載され、戸籍から除かれます。この、死亡により戸籍から除かれた状態を「除籍」といい、その事実が記載されたものが「除籍謄本」です。金融機関や法務局、証券会社など、ほとんどすべての相続手続きにおいて、この除籍謄本の提出が必須となります。これにより、手続きの対象となる人物が法的に死亡していることが確定するのです。さらに、相続人を確定させるため、故人の「出生から死亡までの一連の戸籍謄本(改製原戸籍謄本や除籍謄本を含む)」をすべて揃える必要があります。これにより、故人に他に子供がいないか、認知した子はいないかなどを確認し、法的な相続人が誰であるかを網羅的に証明します。この一連の戸籍謄本を集める作業は、相続手続きの中でも特に時間と手間がかかる部分です。では、葬儀の際に目にする「死亡診断書」や「火葬許可証」は相続手続きで使えるのでしょうか。基本的には、これらの書類は相続手続きそのものでは直接使いません。死亡診断書は、戸籍に死亡の事実を記載してもらうための、いわば戸籍への入り口の書類です。相続手続きという出口で必要になるのは、その結果として作成された戸籍謄本(除籍謄本)なのです。ただし、一部の生命保険金の請求など、迅速な支払いが求められる場面では、戸籍謄本の代わりに死亡診断書のコピーが認められる場合もあります。相続という大きな流れの中では、戸籍こそが故人の法的な生涯を証明する最終的な証明書であると理解しておくことが重要です。