葬儀保険に加入し、例えば二百万円の保険金が準備できていれば、これで葬儀費用の心配は万全だ、と考えてしまうかもしれません。しかし、そこには注意すべき「からくり」が潜んでいます。結論から言うと、葬儀保険金だけで葬儀に関するすべての費用を賄えるとは限らないのです。この点を理解しておくことは、後々のトラブルを避けるために非常に重要です。まず考えなければならないのは、葬儀費用の内訳です。一般的に「葬儀費用」と呼ばれるものには、大きく分けて三つの要素が含まれます。一つ目は、葬儀社に支払う、祭壇や棺、人件費などを含む「葬儀一式の費用」。二つ目は、通夜振る舞いや精進落としなどの「飲食接待費用」。そして三つ目が、お坊さんへのお布施などの「寺院費用」です。葬儀保険でカバーしようと想定しているのは、主に一つ目の「葬儀一式の費用」であることが多いですが、実際には飲食接待費や寺院費用もかなりの額になります。参列者の人数や、お付き合いのあるお寺によって金額は大きく変動するため、保険金だけでは不足するケースは十分に考えられます。さらに、インフレーションのリスクも見過ごせません。十年後、二十年後に必要となる葬儀費用が、現在の水準と同じである保証はどこにもありません。物価が上昇すれば、当然、葬儀費用も値上がりします。契約時に二百万円で十分だと考えていても、実際に葬儀を行う時点では、その価値が目減りしてしまい、結果的に費用が足りなくなる可能性があるのです。また、葬儀そのものの費用以外にも、お墓の購入費用や、仏壇、法要の費用など、葬儀後にも様々な出費が続きます。葬儀保険は、あくまで葬儀というイベントにおける当座の支払いをスムーズにするための強力なツールです。しかし、それに頼りきるのではなく、あくまで備えの一つと位置づけることが賢明です。保険金で基本費用を賄い、飲食費やお布施、その他の費用については別途預貯金で準備しておくなど、複数の手段を組み合わせることで、より安心してその日を迎えることができるでしょう。
葬儀費用は保険だけで本当に足りるのか